引越し屋への転職を考えている人、すでに現場で経験を積んで独立を検討している人が最初に気になるのは、やはり給料や年収の実際でしょう。体力を使う仕事だから稼げるはずだという話もあれば、拘束時間が長いだけで収入は見合わないのではという不安もあります。
この記事では、公的統計をもとにした正社員の給料の実際と、独立開業した場合の収入の目安、そして収入を左右する具体的な要因を整理します。読み終える頃には、転職と独立のどちらが自分に向いているか、判断材料が揃うはずです。
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引越し屋の正社員としての給料の実際
厚生労働省の職業情報提供サイトjob tagによると、引越作業員の全国平均年収は406万5000円で、時給に換算すると一般労働者で1,893円、パートタイムで1,301円程度です(賃金構造基本統計調査。job tag「引越作業員」)。また、ハローワークの求人統計(令和6年度)による月額の求人賃金は23万4000円程度で、こちらも採用の目安になります。
比較として、国税庁の令和6年分民間給与実態統計調査による全職種の平均年間給与は478万円です(国税庁「民間給与実態統計調査」)。引越し業界の年収はこの全国平均よりやや低い水準にあります。ただし引越作業員の有効求人倍率は5.19倍と高く、慢性的な人手不足の業界のため、未経験からでも採用されやすい業界です。特別な資格や学歴を求められないことも多く、体力に自信がある人ほど早い段階で戦力として評価されやすくなります。
就業者の平均年齢は46.3歳とやや高めで、若い世代の転職者は現場で重宝されやすい傾向があります。単発のアルバイトとして働く場合、都市部の時給相場は1,000円から1,300円程度で、コンビニや飲食店のアルバイトより高めに設定されていることが多くなっています。加えて、引越し先の顧客から祝儀として1人1,000円程度を受け取れることもあり、正社員の給料に上乗せする形で稼げる要素になります。
正社員の給与構成は、基本給に加えて残業代や繁忙期の手当が上乗せされる仕組みの会社が多くなっています。3月から4月に案件数が集中する時期は残業も増えやすいため、月収は年間を通じて一定ではなく、繁忙期の数か月で年収の伸びが大きく変わります。転職の際は基本給だけでなく、繁忙期にどれだけの手当がつくのかも確認しておきましょう。
独立開業した場合の収入の実際
正社員やアルバイトとして経験を積んだ後、個人事業主として独立するという選択肢もあります。独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の業種別開業ガイドでは、軽トラック1台で自宅を事業所とする小規模な引越業のモデルケースが紹介されています。月間営業日数20日、1日の引越件数1.5件、客単価約2万円(近距離単身パック相場)を前提に、月間の売上見込みは約60万円、支出見込みは約20万円から25万円、見込み損益は約35万円から40万円という試算が示されています(J-Net21「引越業」)。年間に換算すると、売上は約720万円、営業利益にあたる見込み損益は約420万円から480万円になります。
この営業利益(年換算で約420万円から480万円)は、正社員の平均年収406万5000円と同水準か、やや上回る程度です。ただしこの数字はあくまで一定の稼働率と受注件数を前提にしたモデルケースであり、実際の収入は稼働できる件数と単価次第で大きく変わります。開業直後から同じ稼働率を確保できるとは限らないため、最初の数年は正社員時代より収入が下がる可能性も踏まえておきましょう。
独立の最大のメリットは、受ける案件数や単価、稼働する時期を自分で調整できる点にあります。会社員時代のような給料の上限がなく、繁忙期に集中して稼働すれば正社員の年収を上回る収入を狙うことも可能です。逆に、稼働率を落としてしまえば正社員の年収にすら届かないこともあります。独立は儲かる可能性がある働き方ですが、その可能性を実際の収入に変えられるかどうかは、次に説明する稼働率と単価のコントロール次第です。
個人事業主になると、税金や社会保険料も自分で計算して納める必要があります。会社員であれば給料から自動的に差し引かれていたものが、独立後は売上から自分で確保しておくべき経費に変わります。売上高だけを見て儲かっていると判断せず、税金や社会保険料の分を差し引いた手取りで収入を考える習慣をつけておきましょう。
収入に影響する要因
繁忙期と閑散期の稼働率の違い
引越し業界には明確な繁忙期と閑散期があります。転勤や入学のタイミングが集中する3月から4月は年間で最も引越し需要が多く、依頼件数は5月や6月などの通常期と比べて2倍以上に増えます。料金相場も繁忙期は閑散期の1.2倍から2倍程度に跳ね上がり、単身の引越しでも通常期は4万円台から7万円台のところ、3月には14万円前後まで上がることが多くなっています。
個人事業主として独立した場合、この2か月間にどれだけ稼働できるかが年間収入を大きく左右します。繁忙期に案件を詰め込めるだけの体力とスケジュール管理ができれば、この時期だけで年間売上の3割から4割を稼ぐことも珍しくありません。一方、5月から8月、11月から2月にかけての閑散期は依頼件数が落ち込みやすく、稼働率を維持するための集客の工夫が欠かせません。繁忙期の受注を最大化しつつ、閑散期も安定して仕事を確保できる仕組みを作れるかどうかが、正社員の年収を上回れるかの分岐点になります。
個人宅案件と法人案件の単価の違い
案件の種類によっても単価は大きく異なります。個人宅の引越しは、単身者で通常期4万円台から7万円台、繁忙期の3月には14万円前後まで上がります。1件あたりの単価は比較的高いものの、1日に対応できる件数には限りがあり、繁忙期以外は依頼が集中しにくくなっています。
一方、企業のオフィス移転などの法人案件は、従業員1人あたり3万円から5万円程度の運搬費用が相場とされ、10人規模の移転であれば1件で30万円から50万円程度の受注につながります。法人案件は個人宅より継続的な取引関係を築きやすく、繁忙期以外の時期でも発注が入りやすいため、閑散期の収入の谷を埋める役割を果たします。個人宅の単発案件と法人の継続案件をどう組み合わせるかが、年間を通じた収入の安定度を決める大きな要因になります。
独立開業に必要な準備
独立開業を考えるなら、以下の準備を事前に整理しておきましょう。
車両の確保。軽トラック1台からでも開業できるが、扱う荷物量に応じてトラックの大きさを見極める必要がある
貨物軽自動車運送事業の届出。軽自動車で開業する場合は国土交通省への届出が必要で、トラックを使う場合は貨物自動車運送事業の許可が必要になり、要件が異なる
運送保険への加入。荷物の破損や事故に備えた保険は、法人案件を受注する際の信頼にも直結する
人員の確保。大型家具の運搬は一人では対応できないため、助っ手の確保や外注先の手配を早めに進めておく
開業資金の確保。車両費・保険料・広告費等をあわせて200万円から300万円程度が目安になる
車両と届出は開業前に必ず揃えておく必要がありますが、人員の確保は稼働率を大きく左右する見落としやすいポイントです。一人で対応できる案件だけを受けていると、繁忙期に依頼が重なっても対応できず、せっかくの受注を逃してしまいます。知人や外注先とあらかじめ協力関係を作っておくことで、繁忙期の稼働率を最大化できます。
案件が増えるほど、見積書の作成や顧客管理、請求書の発行を個人の記憶やメモだけで追いかけるのは難しくなります。繁忙期に案件が集中する引越し業では、この管理業務をどれだけ簡略化できるかが稼働率、そして収入に直結します。見積りから請求までの事務作業に時間を取られてしまうと、本来稼働に使える時間が削られ、繁忙期に受けられる案件数が減ってしまいます。
まとめ
引越作業員の全国平均年収は406万5000円で、全職種の平均478万円よりやや低い水準にある
有効求人倍率は5.19倍と高く、未経験からの転職でも採用されやすい業界である
独立開業のモデルケースを年間換算すると営業利益は約420万円から480万円になり、稼働率次第で正社員の年収に近づく、または上回る可能性がある
繁忙期の稼働率と、個人宅・法人案件の組み合わせ方が年間収入を左右する
独立には車両・許認可・保険・人員確保に加え、200万円から300万円程度の開業資金が必要になる
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