「お客様のお宅でエアコンの分解洗浄中に、部品を落として床に傷をつけてしまった。修理費用を全額自腹で支払うことになり、その月の利益が吹き飛んだ…」
清掃業や設備メンテナンスなどの訪問サービスでは、どれだけ注意していても物損事故が起きるリスクがあります。しかし、保険に入っている事業者はまだまだ少ないのが現実です。
この記事では、清掃業や訪問サービス業で検討すべき保険の種類と、万が一の損害に備えるための基本的な考え方を解説します。開業準備の全体像については「自宅開業で始める清掃業、最初に揃えるべきものリスト」も参考にしてください。
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なぜ保険が必要なのか
訪問先での物損リスクは常にある
お客様のお宅で作業する以上、家具や壁、床への傷、水漏れ、機器の破損など、物損のリスクは常に存在します。清掃業で実際に起きやすい事故を整理してみましょう。
作業内容 | 起きやすい事故 | 想定される修理費用 |
|---|---|---|
エアコンクリーニング | 洗浄水が漏れて壁紙や家具を汚損 | 5万〜30万円 |
浴室クリーニング | 強い洗剤でタイルや金属を変色させた | 3万〜20万円 |
フローリングワックス | ワックスムラや剥がれで床を損傷 | 10万〜50万円 |
高圧洗浄(外壁・駐車場) | 水しぶきで隣家の車や洗濯物を汚した | 5万〜30万円 |
ガラス清掃 | 脚立を倒して窓ガラスを割った | 3万〜15万円 |
1回の事故で数十万円の賠償が発生することは珍しくありません。保険に入っていなければ、全額自己負担です。
個人事業主は会社に守ってもらえない
会社員であれば、業務中の事故は会社の保険でカバーされます。しかし個人事業主や一人親方の場合、すべて自分で責任を負わなければなりません。たった1回の事故が、月の売上を超える賠償につながることもあります。
保険に入っていることが信頼になる
「弊社は賠償責任保険に加入しています」と伝えるだけで、お客様の安心感は大きく変わります。特に法人顧客や管理会社からの案件では、保険加入が取引条件になっているケースもあります。
見積書や名刺に「賠償責任保険加入済」と記載しておくと、それだけで競合との差別化になります。
【体験談】保険未加入で高圧洗浄中に泥を跳ねた話
開業直後、まだ保険に加入していなかった時期に、駐車場の高圧洗浄を行っていたら、水しぶきが隣に停まっていた高級車に飛び、泥水がボディに付着してしまいました。その瞬間、生きた心地がしませんでした。
幸い、車の持ち主の方が理解ある方で、午後に洗車場での洗車代(数千円)を負担することで和解しましたが, もし塗装に傷がついていたら数十万円の修理代を自腹で支払うことになっていました。この件をきっかけに、翌日には賠償責任保険に加入しました。
検討すべき保険の種類
清掃業に関わる保険は主に4つあります。優先度順に見ていきましょう。
優先度 | 保険の種類 | カバー内容 | 年間保険料の目安 |
|---|---|---|---|
最優先 | 賠償責任保険 | 作業中にお客様の物を壊した場合 | 1万〜3万円 |
高 | PL保険(生産物賠償) | 作業完了後に問題が発覚した場合 | 5,000〜2万円 |
高 | 傷害保険・労災保険 | 自分やスタッフがケガをした場合 | 1万〜5万円 |
中 | 自動車保険(事業用) | 業務中の交通事故 | 既存の保険を事業用に変更 |
賠償責任保険(最優先で加入すべき)
作業中にお客様の物を壊してしまった場合に、修理費用や賠償金をカバーしてくれる保険です。清掃業で最も重要な保険と言えます。正式には「施設賠償責任保険」や「請負業者賠償責任保険」と呼ばれます。
カバーされる事故の例
清掃中に壁紙を剥がしてしまった
高圧洗浄機で隣家の車に水が飛び、塗装が傷ついた
脚立を倒してお客様の花瓶を割ってしまった
洗剤をこぼして床材を変色させた
カバーされないケースの例
故意に損害を与えた場合
作業完了後に問題が発覚した場合(これはPL保険の範囲)
保険契約で定められた免責金額以下の損害
※「賠償責任保険」と「PL保険」の適用範囲(作業中か作業後か)は保険会社によって微妙に異なる場合があります。詳細は加入する保険会社の約款を必ず確認してください。
PL保険(生産物賠償責任保険)
作業完了後に問題が発覚した場合に備える保険です。賠償責任保険と合わせて加入しておくと、作業中と作業後の両方のリスクをカバーできます。
カバーされる事故の例
エアコンクリーニング後に水漏れが発生し、お客様の家財が水浸しになった
ワックスがけ後に床が滑りやすくなり、お客様が転倒してケガをした
清掃後にカビが再発生し、原因が洗浄不足だったと判明した
傷害保険・労災保険
自分自身やスタッフがケガをした場合に備える保険です。一人親方でも加入できる「一人親方労災保険」という制度があります。
高所作業や化学洗剤を使う作業では、自分自身の安全もリスクに含まれます。ケガで1ヶ月働けなくなった場合の収入ゼロを想像すると、月額数千円の保険料は安い投資です。
自動車保険(事業用)
現場への移動に自家用車を使っている場合、重要な確認ポイントがあります。自動車保険の「使用目的」が「日常・レジャー」や「通勤」になっている場合、業務中の事故がカバーされないケースがあります。
保険会社に連絡し、「事業用途でも使用している」ことを伝えて、使用目的を変更しましょう。保険料は若干上がりますが、万が一の事故で保険金が支払われないリスクを考えれば必要な出費です。
保険を選ぶときのポイント
年間保険料と補償額のバランスを確認する
補償上限額 | 年間保険料の目安 | 月額換算 |
|---|---|---|
1,000万円 | 10,000〜15,000円 | 約800〜1,250円 |
3,000万円 | 15,000〜25,000円 | 約1,250〜2,100円 |
1億円 | 20,000〜35,000円 | 約1,700〜2,900円 |
月額1,000〜3,000円程度で数千万円の賠償リスクをカバーできます。1回の事故で発生しうる修理費を考えれば、費用対効果は非常に高いと言えます。
業界団体の保険制度を確認する
全国ハウスクリーニング協会(HCA)や各地域の清掃業協会などの業界団体が、会員向けの団体保険を用意していることがあります。個別に加入するよりも保険料が安くなるケースがあるため、まずは所属団体に確認してみましょう。
複数の保険会社から見積もりを取る
保険料や補償内容は保険会社によって異なります。少なくとも2〜3社から見積もりを取り、以下の項目を比較してから決めましょう。
補償範囲(どこまでカバーされるか)
免責金額(自己負担額はいくらか)
保険料(月額・年額)
示談交渉サービスの有無
保険以外の備え
作業前の写真撮影を習慣にする
作業前に現場の状態を写真で記録しておくことは、トラブル時の証拠になります。「もともとあった傷」と「作業中にできた傷」の区別がつかないと、責任の所在が曖昧になり、不要な賠償を負うリスクがあります。
撮影すべきポイントは以下のとおりです。
作業箇所の全体像
既存の傷・汚れ・劣化箇所のアップ
壁紙の剥がれ、床の傷、設備の状態
周辺の家具・家電の配置(養生の範囲を記録するため)
契約書・作業同意書を用意する
作業範囲と免責事項を記載した書面をお客様に確認いただくことで、「言った・言わない」のトラブルを防げます。特に「経年劣化による破損は保証対象外」「作業範囲外の損傷については責任を負いかねます」といった項目は明記しておきましょう。
まとめ
保険は「万が一のときにしか使わない」ものですが、その「万が一」が事業の存続を左右することがあります。
賠償責任保険 — 最優先で加入。作業中の物損をカバー(月額約1,000円〜)
PL保険 — 作業完了後のトラブルに備える
傷害保険・労災 — 自分やスタッフのケガに備える
自動車保険 — 事業用であることを保険会社に伝えているか確認
保険以外の備え — 作業前の写真撮影と契約書の整備
月額数千円の保険料で、数百万円のリスクを回避できます。まだ加入していない方は、まず賠償責任保険から検討してみてください。
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